美濃加茂事典
羊形硯(ようけいけん)
 古代の陶製の硯にみられる動物などをかたどったユニークな形象硯(けいしょうけん)の中で、羊の形状をしたもの。日本において奈良時代に羊は生息していなかったが、飛鳥時代や平安時代初期に朝鮮半島から羊が献上されたとの記録が残っている。中国の絵画や造形には羊が霊獣として登場するが、その源流は遠く西アジアまで辿れるものであり、羊形硯は東西の文化交流を示すものとも言える。
 美濃加茂市蜂屋町の尾崎遺跡(41号バイパス地点)から、1992年、奈良時代と推定される羊形硯が1点出土している。頭部のみが残るが、その形状から羊を模した硯の一部と推定される。具体的な羊を模した類例は平城京などで出土したものがあるが、全国でも8例ほどしか確認されていない。当時、硯が使用される場は役所、寺院などに限られていた。また硯も多くは須恵器の破片などを用いた転用硯が一般的であり、このような特殊な硯を使用したのは比較的高位の役人であったのではないかともいわれている。この硯は、尾崎遺跡の性格や意味を考える上で貴重な資料といえる。
【図書資料】№2746『尾崎遺跡(岐阜県文化財保護センター調査報告書第13集)』p102,113,160、№8914『みのかも文化の森 美濃加茂市民ミュージアム 展示案内』、№9425『文字の登場、そして広まり 古代中世の人と文字をめぐって』p19、№10549発掘された尾崎遺跡展 -この地に人が残したもの-』p11
【展示情報】企画展2001「文字の登場、そして広まり 古代中世の人と文字をめぐって」企画展2002「発掘された尾崎遺跡展」常設展「羊形硯」