美濃加茂事典
新水や空(しんみずやそら)
坪内逍遙が弟子を通じて岡本一平の絵を求めたことがきっかけとなり、制作された役者絵集。1929(昭和4)年1月5日から4月7日まで、東京朝日新聞に連載された。題名は、江戸時代の漫画家・耳鳥齋の役者絵集「絵本水や空」に因んで付けられたもの。歌舞伎、帝劇、新劇など、当時の役者が墨で描かれている。この作品の制作のため、一平は舞台や役者を撮影した写真を参考にしていたようである。筆を入れることを最小限にとどめながらも、一人ひとりの個性を露わにしている。潤滑豊かな筆の余韻は役者の生命力をも感じさせる。単なる耳鳥齋のパロディーではなく、鳥羽絵や大津絵といった日本の戯画の真髄を継承する作品として生み出そうとした、一平の自負がくみ取れる作品集と言える。この後の一平は朝日新聞特派員として西欧へ赴くが、海外の漫画家たちに名刺代わりに「新水や空」を見せていたという。連載の後、原画は2冊の折本にまとめられ、坪内逍遙を通じて早稲田大学坪内博士記念演劇博物館に寄贈された。逍遙は日記に、一平が妻の岡本かの子とともに「新水や空」を持参したことを記している。「新水や空」は俳優の部は文芸春秋社、素描社など様々な出版社から体裁を変えて幾度か出版されている。